今この人を撮りたい Vol.14

ホームページに付属しているブログで連載している「今この人を撮りたい!」
僕の周囲にいる魅力的な方々を撮影させていただいてます。久住のラッパー ケイスケくんで14人目となりました。彼は大腿骨頭壊死症という難病が今年発覚し、竹田市でのライブは手術の3日前のことでした。

K-SK ケイスケ    久住のラッパー

 
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雲の合間から山々が見え隠れしている。梅雨入りがずいぶん遅れている6月下旬の久住高原。葉の茂る木々、しっとりとした緑の大地がかなたまで続き、地平線と雲の交わりがぼんやりと境界をあやふやにしている。いつ来ても均整のとれた美しい高原だなあと思う。
 この高原を見渡す沢水キャンプ場の駐車場で、久住のラッパー、ケイスケくんと待ち合わせをしていた。彼の実家はここから車で10分ほどの久住商店街にある。早々と到着した僕は先ほどまで車で聞いていた彼のCDの歌詞を思い浮かべながら、どこで撮影しようかとしばらく鳥の声の響く草原を散策していた。

この町で静かに火灯す 音に言葉に韻落とす
つまり俺はラッパー スクラップビルド 繰り返し転じイチアーティスト
この町からなにができるかってこと考える前にひとまずアクション

彼と初めて会ったのはおよそ1年前、久住にある知り合いのゲストハウスで行われたバーベキューパーティーでのこと。僕は仲間3人とこの大自然に囲まれたゲストハウスを訪れ、ノハナショウブの先に広がる畑、黒々とした森の木々を眺めながら火を熾していた。そこへやってきたのが久住のラッパー、ケイスケくんだった。大柄でよく響く低音ボイス、最初は怖い印象でもあったけれど、人なつっこい笑顔でみんなからとても好かれているようだった。途中から音楽仲間である池見優くんも加わり、久住の夜に音楽が響き渡っていったのだった。
ここで僕は初めてフリースタイルラップというものを聴いた。それは即興で詩をつくり(というか思いつき)、ラップにのせてゆくというもの。これはかなり難しいと思うのだが、彼の口からはいとも自然に言葉が生み出され、この場での出会いのうれしさなどの想いをを瞬時にラップにのせていった。平穏でうららかなる月夜の大地にラップが響き渡ってゆく。
久住のラッパー、これはただものではない。
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その後、竹田市の8ミリ映像を集めて地域映画にするという「タケハチシネマプロジェクト」の挿入歌を仲間3人で担当し、グランツたけたで行われた完成上映後のステージでは観客席まで駆け巡り盛り上げていた。そういえば彼は大分県知事にフリースタイルラップで挨拶したというエピソードを持っている。土壇場での度胸を兼ね備えている。

背筋を伸ばし この身を焦がし 神経削って言葉を吐き出し 
回りきにせずひたすら前進 久住のラッパー進化の片鱗 

久住高原で再会した僕たちは、様々な場所で撮影しながら草原を歩き続けた。
「改めてこうやって眺めると、やっぱ久住ってすごいところですよねえ。なだらか、しなやか、すくすくっていうか」
彼は大好きなふるさと久住を眺めながらこうつぶやいた。この高原に身を置くことで心が揺さぶられ、星空にインスパイアされ、自分自身と向き合うことができる。そしてどんどん進化し続けることができる。

きっと違う惑星からこうやって地球眺めてる
揺れる光それぞれの夜彩って空に灯る 闇に溶けた影が夜空見上げる
なにを思う この静かな夜に胸高鳴る

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数日前の新聞で彼が大きく取り上げられていた。見出しには 「いつでも前向き 難病のラッパー」 とある。彼は今年、突発性大腿骨頭壊死症と診断され、この久住高原での撮影の10日後には福岡で手術を受けることになっていたのだ。リハビリにかなりの時間を要することも新聞は伝えていた。しかし僕は「いつでも前向き」という言葉はあまり好きではない。もちろん前向きがいいのは分かっていても、人間なんだから前向きになれないことだって少なからずあるだろうし、あえて後ろを向くことで高ぶった感情を落ち着かせ、自分を見つめ直すきっかけになるかもしれない。「やっぱり不安は不安なんですよね」と笑顔で言った彼の中にはきっと想像できないような不安が横切っているのだろう。歌詞を見れば分かるように度胸の裏にかなり繊細な心を持っているということも分かる。そんな彼だからこそライブでは多くの人の心に響くだろうと思った。僕は人を撮影する際にはその人の幸せを念じながらシャッターを切るように心がけているが、この時はいっそう強く念じた。

そして手術の3日前、竹田市の「ニュー堺屋」でライブを開催。
「今日はしぬのにいい日だ」
アメリカの作家、ナンシー・ウッドの詩から決めたこのライブ名。何だか彼らしいユーモアさえ感じられてちょっと笑ってしまう。チラシには先日僕が撮影した久住高原での写真が使われ、このライブ名に込めた想いが綴られていた。
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ライブは老若男女100人を超える超満員状態。彼の人々への愛に溢れたパフォーマンスに底知れぬパワーを改めて感じたのだった。
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一度きりの人生 一人だけの人間 まっさらなキャンバスに好きなように描く絵
型にはまらねえ 時に常識も疑え 繋がれた鎖千切れる考え方ひとつで

彼の復帰ライブが今から楽しみだ。新たなる人生の深みを伝えてくれるに違いない。

(後日、彼の手術は無事終了しました)


K-SK ケイスケ  本名 児玉啓佑   
久住のラッパー
竹田市久住出身の31歳  所属ゆれる
各地でライブ活動、楽曲制作、映画への楽曲提供など精力的に活動中。
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写真 文 川上信也  hp 川上信也 Photographer

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